2026年6月13日土曜日

「儲けそこなった」というマインド


<よく聞く会話>

「キオクシア、買っておけばよかったなー」  

「だって14万で買って700万だぜ」


競馬場で聞くようなこの会話。

これは本当に「惜しかった機会損失」

なのだろうか?


少し掘り下げてみよう。


 **株高の波に乗れている人は、何%か?**


まず数値で考えてみる。


①NISAや株式投資をしている人

 → 全体の約20%

②その中でAI銘柄に投資して恩恵を受けている人

 → ①×約20%

③爆上がりしても売らずにホールドし続けた人

 → ②×約20%


これを掛け算すると——全体の0.8%。


1%未満では夢がないので、

上がり始めてから買った人も含めて

甘めに見積もっても、せいぜい5%だろう。


残りの95%は、横目で眺めているだけだ。

株高の恩恵を受けていない人が、圧倒的多数だ。


 「儲けそこなった」は本当か?


「儲けそこなった」という言葉は、

いかにも手が届きそうな表現だ。

しかし、立ち止まって考えてほしい。


値動きの荒いAI銘柄に大金を突っ込み、

暴落しても、急騰しても、

ずっとホールドし続けられる

メンタルを、自分は本当に持っているか?


キオクシア株を14万円で買って、

700万円になるまで持ち続けられた人。

それは——

持ち株会で売買が制限されていた社員か、  

あるいは逮捕・拘留されてスマホを取り上げられ、

売ることができなかった人ではないか。

(冗談めかして書いているが、

 これは本質を突いた話だ。)


人間は、株が2倍になると

「そろそろ売ろうか」と考える。

3倍になると「もう十分だ」と思う。

10倍、50倍まで持ち続けるには、

特殊な事情か、特殊なメンタルが必要なのだ。


 「あの時買っていれば」は競馬と同じ


「あの時キオクシアを買っていれば」  

「あの時ゴールドを買っていれば」  

「あの時GAFAMを買っていれば」

これはいつも言われる言葉だ。


しかし、これは競馬のレース結果を見てから

「この馬を軸にしていれば」と言うのと、

まったく同じだ。


結果が分かってから最適な選択をするのは、

誰でもできる。


問題は、

結果が分からない状況で、どう判断するかだ。


当時、キオクシアを買うことは、

決して「誰もが正解だと思う選択」ではなかった。


半導体市場の見通しは不透明で、

競合他社との競争も激しく、

倒産リスクすらあると言われていた。


「あの時買っていれば」は、

後知恵バイアスという名の幻想だ。



 この後悔は、人生にプラスか?


では、「儲けそこなった」という後悔や反省は、

人生にとってプラスなのか?


私はそう思わない。


手が届きそうだったと思うから、

後悔の念が強くなる。


それよりも——

「自分はその選択を絶対しなかった」

と、遠い国の出来事のように回想することで、

自分なりのふんぎりをつけることが

できるのではないか。


「14万円をAI銘柄につぎ込む」という選択。  

「暴落しても売らずに持ち続ける」という選択。


自分のリスク許容度、家族の状況、

当時の生活費、精神的な余裕——

すべてを考えると、

「自分には絶対できなかった選択だ」

と気づくはずだ。


「1点全ぶっこみ」幻想の危険性


夢を見ることは悪くない。

しかし、「あの時、億万長者になれた」

という幻想を持ち続けることには、危険がある。


それは——

「1点全ぶっこみ・ドカンで人生勝ち組」

という思考回路を、自分の中に

育ててしまうかもしれないからだ。

宝くじを毎週買い続ける人、

パチンコで「あと少しで当たる」と思い続ける人

——これらと、本質的には同じ心理構造だ。


「次こそキオクシアのような銘柄を見つけてやる」

という焦りは、冷静な判断力を蝕む。


そして焦った投資判断が、

資産を守るどころか、

大きく棄損させる原因になる。


 平常心こそが、壊れにくい資産形成の土台


8がけ社会に向かう今、

私たちに必要なのは「一発逆転」ではない。


「壊れにくい資産形成」だ。


- 値動きの荒い銘柄への一点集中ではなく、

 分散投資

- 「儲けそこなった」という後悔ではなく、

 「自分のペースで着実に」という信念

- 競馬場のような熱狂ではなく、長期的な視点


こういった心のざわめきは、人間の性(さが)だ。


「あの時買っていれば」という感情は、

 完全には消えない。


しかし、それを「自分には縁のない話だった」

と整理する習慣が、平常心を保ち、

壊れにくい資産形成につながる。


「儲けそこなった」より「壊れなかった」


投資の世界では、「大きく勝った人」より

「大きく負けなかった人」が、

長期的に豊かになる。


「儲けそこなった」と嘆くより

「自分は壊れなかった」と胸を張る。


それが、8がけ社会を生き抜く投資家の

マインドではないだろうか。