仏教の洞察によると
ヒトが苦しみを感じるのは
つらい体験や、手に入らない経験を
渇望しているときだけではない。
物事がうまく進んでうれしいときでさえ、
その状態を失うまいと
苦痛になることがある。
自然と触れ合う午後
赤ちゃんと過ごす時期
その瞬間をしっかり味わおうと
頑張りすぎたり、
この時間を後に残そうと
写真を撮るのに忙しく
楽しみ余裕を失いがちにある。
今日はあるべき1日を過ごせたけど
しっかり過ごさなくとは
喜びのチャンスが
苦痛とストレスの種に変わってしまう。
未来に向けて溜め込もうとする
気持ちが目の前の体験を
なにか別のものにする
過ぎ去る時間を、つかんで離すまい
時間を冷凍保存したい。
しかし、
どんなにしがみついても
体験を永続させることは出来ない。
茶道では
移ろいよく時のはかなさは
体験の価値を損なうのではなく、
生み出すと考える
うつろいゆくはかなさへの哀愁を
しみじみと感じることも大切である。
吉野弘さんの「祝婚歌」はそれに通じる。
二人が睦まじくいるためには
愚かであるほうがいい
立派すぎないほうがいい
立派すぎることは
長持ちしないことだと気付いているほうがいい
完璧をめざさないほうがいい
完璧なんて不自然なことだと
うそぶいているほうがいい
二人のうちどちらかが
ふざけているほうがいい
ずっこけているほうがいい
互いに非難することがあっても
非難できる資格が自分にあったかどうか
あとで
疑わしくなるほうがいい
正しいことを言うときは
少しひかえめにするほうがいい
正しいことを言うときは
相手を傷つけやすいものだと
気付いているほうがいい
立派でありたいとか
正しくありたいとかいう
無理な緊張には
色目を使わず
ゆったり ゆたかに
光を浴びているほうがいい
健康で 風に吹かれながら
生きていることのなつかしさに
ふと 胸が熱くなる
そんな日があってもいい
そして
なぜ胸が熱くなるのか
黙っていても
二人にはわかるのであってほしい